先生へ。
4/28。先生の家にお線香をあげに行った。

先生の家は普通のマンションで、学校からは少し遠かった。

桜はもう散っていたけれど、夏には近くの公園で行われる有名な花火大会がよく見えるのだろう。
先生は奥さんと二人で眺めていたのだろうか。
綺麗だね、なんて言われてその時くらいはそうだな、なんて素直に言ってみたりしていたのだろうか。

そんな事を想像するとどうにも涙が込み上げてくる。
でも、先生の奥さんに会うのに泣き顔ではダメだ。
第一、先生に泣き顔なんて見せたくない。
そう思って我慢をした。

先生の奥さんはイメージとは違った。もっと気の弱そうな人かと思っていたのだけど…かと言って気が強そうという訳ではなくて、優しそうな雰囲気のある人だった。

玄関に入るとすぐ、船の模型が飾られていた。
すると奥さんが、「主人が作ったものなんです」と口を開いた。

あんなに短気そうな人だったのに家ではそんな細々としたものを弄っていたのかと、そんな姿を想像するとおかしくて笑みが零れる。

先生の仏壇には生徒からの寄せ書きや写真が飾られてて。
転校さえしなければ私も手紙を書いていたかもしれないのだと思うと、本当にやり切れなかった。

部屋には先生の写真が溢れてて。
先生に対する奥さんの愛情を感じられた。

でも同時に、私は先生の事を知らないのかと気付かされて。

恋にも似た感情。でも恋じゃない。

確かに私は先生が好きだった。
今でも先生が好き。

先生が居たから今の私がいると断言できる。
もしかしたら、先生のお陰で研究者にでもなるかもしれない。
例え稼げなくても。例え辛くても。
先生の事を思い出せば苦じゃないから。

せめて先生が好きだと伝えたかった。

なんで先生が死んだの?
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