不機嫌でかつスイートなカラダ ベリーズ文庫版
「なんでよ。悔しくないの? 萌香、いいように弄ばれてるだけかもしんないんだよ? もう、ここで白黒はっきりさせちゃいなよ」


フルフルと首を横に振る。

不思議と悔しいなんて気持ちはなかった。

それよりも今、私の心の中を占めている感情は……。


「怖くて、今はまだ勇気が出ない」


あの子の前で冷たい態度をとられでもしたら、自分があまりにもみじめすぎるよ。


「萌香ぁ……」


私より先に沙耶が泣いちゃいそうだった。

ダメだよ、沙耶。
そんな顔しないでよ……。


喉にグッと力をいれて、涙を耐えた。

なぜか今は素直に泣けなかった。泣いたら、余計みじめになるような気がしたから。

かじかんだ手に、はぁと息を吐く。


「寒いねっ。もう、帰ろっ」


ふたりから目をそらし、まだ泣きそうな顔をしたままの沙耶の背中をパシンと叩く。

視界がぼんやりと歪んで見えるのも、鼻の奥のほうがツンとするのも、ヒリヒリとするこの胸の痛みも、いっそ寒さのせいだったらいいのに……。


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