孤独な歌姫 緩やかに沈む

「……夢羽、少し休憩入れようか」

 レコーディングルームの向こうでディレクターの佐倉さんがそう告げてきた。





 ビクッと肩を震わせてガラスの向こうを見たけど既に佐倉さんは私など見ていなかった。





 ポリポリと頭を掻く佐倉さん。その姿を目で追うけど、ついに彼は振り返ることはなくスタジオを後にした。






 硬直する身体。
 背中には冷たい汗がすうぅっと伝う。





 スタジオの絨毯を見つめるだけで私には何もできないんじゃないかって思う。






 ――――休憩を一時間ほど挟んだものの、何かを改善できる要素なんて全くない、今の私には。






 それがわかっているのに、マイクの前に立つのはとても恐ろしい。いつもならマイクに触れたりすれば緊張など解けていたのに。天井から降りているマイクに触れても心は落ち着かなかった。





 その緊張にまた手が震えた。改善できない自分の気持ちに焦る。震える手を下ろすと、佐倉さんがまたなにか言ったようだったけど私の耳には届かない。





 曲は流れ始める。
 どんな曲だった? どんな歌詞だった? どんな気持ちで歌えばいい? 




 わからないことばかりが頭の中を巡る。




「……ッあ……ッ」
 音を外して出だしも遅れた。それ以上、声が出ない。それがわかっただけで私の顔が青ざめた。信じられない自分の声に何度も目を瞬かせる。




 ……今のは自分の……声……?

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