孤独な歌姫 緩やかに沈む





 程なくして急いだ様子でこの店に入ってきたのは君島 有生だった。





「スミマセン、遅れちゃって」

「そんなに待ってないよ」

 走ってきたらしく、息が切れている。それでも笑顔で話す彼には好感が持てた。





「すぐそこで事故があったみたいでなかなか通れませんでした」





「そう……」

 だけど、君島くんがどうして遅れたのかもそこであった事故のことも興味はなかった。





 「何飲んでるんですか」私のグラスを覗き込む彼に「ブルームーンだよ」と微笑みつつ、答えた。





「……ブルームーン……?」

 意味を知っているのか、やや困惑気味の彼に「今日の私の気持ちだよ。君は側にいてくれるだけでいいの」と、有無を言わさない沈黙を作った。




 ……ブルームーンとは一般的に女性が誘いを断る時やあなたには相談できない、という意味で使われることが多いんだ。


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