レンタルな関係。

◆これから先のこと

 
 目を見開いたまま、

 固まる私。


 頬に添えられた、両手。

 おでこに触れる、前髪。

 伏せられた、長いまつげ。


 夏の日差しより熱い、

 流川の体温。


 目の前の全ての景色が。

 流川に変わる。


 青い空も。

 水しぶきも。

 行き交う人たちも。

 周囲にあふれる、音さえも。

 全部。





 一瞬の出来事。


 なのに私の唇は。


 ううん、全身の神経が。


 フル作動で流川を感じてる。



 びっくりして。

 でも。

 初めてちゃんと触れた流川の唇に。

 もっと集中したくって。

 もっと、流川を感じたくて。


 開きっぱなしの目を閉じようと、試みる。


 なのに。


「よく騒がなかったな」


 言葉と一緒に、

 数秒で離れてしまった体温は。

 なにも言い返せない私の目をのぞきこみ。

 
 動いた指が。


「合格」


 私の髪をすくって。

 
「でもお前の唇、荒れてるぞ」


 唇で、止まる。




< 272 / 314 >

この作品をシェア

pagetop