レンタルな関係。

「あっ! 思い出した! 流川直人!!」


 
突然、でっかい声を張り上げて。

 
周りにいたお客さん、全員こちらへ注目。

 
 
隣りのテーブルのカップル、彼氏のほうが水零しちゃいました。

 
あちゃぁ…

 
シーザーサラダ、おもいっきり水かぶってるよ…

 
彼女に怒られちゃってるよ… 

 
ごめんなさい、私の親友のせいで。



「麻紀、あんたの声、騒音だから」


「唯衣、あたしその人、知ってる」


「え?」


「知ってるっていうか、いや、見たことないけど、知ってる」


「なにそれ」


「あたしが取ってる授業で、その男のこと知ってるヤツがいてさ。噂話にその流川直人って名前が出てきてたの聞いた覚えがある」


「噂話?」


 
麻紀はコップの水に口をつけて、口のなかのパスタを流し込んでから、おしぼりで口元をぬぐった。

 
ぬぐいきれてないソースがほっぺまで伸びちゃって…

 
ぶぶ。笑えます。



「ちょっと、唯衣、笑ってる場合じゃないわよ」


 
吹き出した私に、麻紀は身を乗り出して。

 
赤いほっぺの真顔で私の目を覗き込んだ。



「聞いた話によると、その流川直人って人、夜な夜な街に繰り出しては女あさりしてるって噂よ」


「へ?」


「ギラギラのネオン看板の店にもしょっちゅう入っていくみたい」


「ギラギラ…」


「キャバクラとか、下手すりゃソープとか?」


「うそ…」


「ま、そこまで詳しいことは聞いてないけどさ、流川直人の名前が出てきてた会話では、それに近いような話はしてたわね」


 
キャバクラ…

 
ソープ…



「でも、頻繁に夜の繁華街に出没してるってことは、確からしいわよ」


「そ、そうなんだ…」



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