あいつが好きな、私の匂い
あいつが好きな、私の匂い

「女の子ってさ、どうしてこう、いい匂いがするんだろな……?」


腕を組んだ大悟が黙っていればクールに見える顔に難しそうな表情を浮かべていた。

真剣なその顔に似合わず言い出したことは今日も今日とて馬鹿馬鹿しいことだったけれど、本人にとってはいたって大真面目な疑問らしく、口元に手を押し当てて考えるポーズをしていた。


「なあ。理沙ねえはどうしてだと思う?」


訊かれて心の中で毒づく。あんたの周りにいる女子たちのことなんてわたしが知るかよ、と。


大悟の周りにいるのはどうせ私とは全然違っておしゃれでかわいい女の子たちなんだろう。どうやら合コン帰りだという今日も、ちやほやしてくる彼女たちの中で誰かお気に召した女子でもいたようだ。

香水の甘い匂いに簡単に引っ掛かってくるなんて、相変わらず分かりやすい男だ。


「理沙ねえ、聞いてるか?」


わたしが答えずにいると、大悟が不満そうな声で同じことを訊いてくる。


「はいはい。そんなの、フェロモンでも出てるからじゃないの」
「フェロモン?」


見るともなしに広げた雑誌に目を落としたままわたしが適当に答えると、大悟は「……ああ、なるほど」と声を上げる。


「たしかにそういう感じかも」


なんか無性に嗅ぎたくなる匂いなんだよな、と独り言のように呟き大悟はうんうんと頷く。



----------あたまの弱いやつだな。



フェロモンなんてものがあるんだとしても、それが人間の嗅覚で知覚できるはずがない。何を納得してるんだろうこの馬鹿は。


さすが毎年「やべ。必修落としそうだ」と期末に騒ぎ出すだけのことはある。

見た目はちょっとSっぽく見えるくらいクールに整ったいい男なのに。この顔で中身はただの馬鹿なんてほんと残念なやつだ。

だからこんな非常識な時間にわたしみたいな微妙な年齢の女の家に何も考えずに遊びに来れてしまうのだろう。



「……本当に馬鹿な奴」


大悟に聞こえるかもしれないのを承知の上で呟いていた。





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