蜜は甘いとは限らない。【完】
「そちらが、嵐川さんのお嬢様ですか?」
「…えぇ、そんなものです」
「嵐川さんによく似て、綺麗な顔立ちをなさって。
よくおモテになるのでは?」
「いえ、そんなことは。
…こんな娘で良ければ、嫁にどうですか?」
「はははっ
私のようなジジイに嫁がせても、そちらのお嬢様を幸せに出来るとは思いませんな」
「ご冗談を」
ははははっと、ずっと同じ表情のあたしの横で、楽しげに笑う2人を見てゾッとする。
本当、この世界は嘘で塗り固められている。
嘘の仮面を脱げば、もうそこに自分の居場所はなくなるこの世界。
あたしはもう、抜け出したい。
…無理な、話だという事は理解はしているのだけれど。
「では、また一緒に食事でも…」
「いいですねぇ。
オススメの店が、あるんですよ」
「ははっ
さすが桜城さん。食に関して詳しいのは相変わらずだ」
「まぁ、だからこんなにブクブクと太るんですけどね」
なら、痩せろよ。
笑みを崩さないように話を続ける2人を眺める。
口出しすれば直ぐに笑顔が崩れるのは分かっているから、何も言えないし、言わない。