俺と無表情女の多表情恋愛
無表情女

┗のイメージが変わるとき




俺の知ってる桐生葉乃とは、こういうやつだった。






「桐生葉乃です、よろしくお願いします」

簡潔に自己紹介したその転校生は、転校初日から「無表情女」と言われた。
それが、俺と彼女のファーストコンタクトだったりする。



桐生葉乃は一言でいえば完璧人間だった。

まず、彼女の名字から分かるように、彼女の父は桐生病院の医院長。世界でも有名な桐生先生の一人娘だ。
当然と言えばそこまでだが、その桐生先生の頭脳を受け継いで頭が良い。
さらに加えて、母親はバレーボールの元日本代表らしい(と女子たちが騒いでいた)


背も高く、運動神経も良い彼女が有名になるのは明白だったが、噂に拍車をかけたのは「無表情女」の所以であるその表情のなさだ。

誰が話しかけてもにこりともしない。試しに笑わせに行ったやつらもいたが、数分後には玉砕して帰ってきていた。


そうして彼女は「無表情女」の地位を獲得したのだ。




さて、なんで今いきなりこんな話を持ち出したか。
……それは俺が目にした光景が原因だったりする。




掃除当番でゴミ処理担当になった俺は、放課後校舎裏の焼却炉にゴミを突っ込んでいた。
その途中、ぼそぼそと誰かの話し声がし、気になって見に行くとそこには草むらにむかってしゃがんでいる無表情女がいた。



「こんなところで一人で何を…」

もしかしたら具合が悪いのかもしれない、と思い少し距離を縮める。
そうして聞こえた予期せぬ話し声の衝撃は絶対忘れることがないと思う。



「うん、今日もかわいいね、桃太郎。たーんと食べていい子産むんだよ?」


草むらの隙間からちらっと見えたのは、どっしり構えて座っているデブ猫。
いろいろつっこむ点がありすぎて、あまりの教室でのイメージとの違いに笑いがこらえなくなってしまった俺は、自ら無表情女に存在を教えてしまったのだった。







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