イジワル上司に恋をして
「欲求不満かよ」


「なっちゃん! コーヒーとミルクティ。お願い出来る?」


“ゴメンネ”のポーズを小さく取りながら、早口でわたしにそうお願いをする。

香耶さんは忙しそうに、事務所内を小走りでちょこちょこと動き回り、両手に色々と抱えてはサロンで待つお客さんの方へと戻っていく。

わたしはというと……。


「なの花ちゃん、こっちもアイスティー2つ、お願いしてもいい?」
「あ、はい。いいですよ」


今までにないほど、お茶出しに追われていた。
そんなところに、ショップから様子を窺いにきてくれた美優ちゃん。


「鈴原さーん……わ! すごい洗い物の山!」
「そうー全然そこまで手がまわらなくて。かろうじてグラスやカップが足りてるからよかったけど」
「飲み物、コーヒーオンリーにしてもらえばよかったんじゃないですか?」
「んー……でも、せっかくだから、ショップの商品にも繋げたい……って思っちゃって」


で、そう黒川に言ったら、なんと。アイツが。あの、口を開けば人をバカにする言葉しか吐かないようなアイツが。
わたしの提案を、ほぼそのまま受け入れやがった。

まったくもって、信じられない出来事だ。


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