イジワル上司に恋をして

西嶋さんが目の前にいるのも忘れそうになるくらいに、「うーん」と唸って考える。

その思考に突然割って出てきたのが、なぜか黒川のヤロウだ。

『どうせ猫被ったって、すぐボロ出すんだから、無駄な足掻きはやめろ、バーカ』

なんて、アイツの言いそうなことを自分で想像して腹が立つ。
でもムカつくのは、その通りだからかもしれない。


「鈴原さん、そんなに悩まなくても」
「あの! 居酒屋とかで! 若者とか行かなそうな!」
「『若者とか行かなそうな』……?」


あれ……なんかマズイこと言ったかな?

わたしの言葉をそのまま復唱し、驚いた顔で固まる西嶋さんを見て焦る。


「ぃや! あの! なんていうか! 賑やかなとこより、おじさんとかが平和に吞み交わすような居酒屋とかが好きで!」
「『おじさん』『平和』……」
「いや、だから……」


ああぁあ! 軌道修正するはずが、変な方向に曲がって行く……!
素で答えちゃったけど、こういう初デートみたいな場面って、相手に一存すべきだったんだよ、絶対。大体、妄想の中でもそうだったはずじゃない! なのに、リアルになるとわけわかんなくなっちゃうし!

せめてもっと、女子らしい場所を口にすべきだったー!


笑顔の裏で大泣きしてると、西嶋さんが「ぷ」っと堪えきれなくなったように笑いを漏らす。

恐る恐る顔を見ると、片手の甲で口元を隠すように、私を見て爆笑手前。


……もうだめだ。

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