イジワル上司に恋をして
「ここからは私が引き受けましょうか?」


「あの、ごちそうさまでした」
「んーん。鈴原さんのお店のセレクトのおかげで、すごく安く済んだ!……なんてね」
「え。あ、そ、そうですか?」
「うん。いいね、こういうとこ」


店先でそんな話をしながら、次になにを口にしようか考える。

あっさりと、『じゃあ』と別れるものなのか。それとも、なにかこのまま少し雑談でも続けて、駅まででも一緒に歩くべきなのか。
そもそも、西嶋さんのおうちってどっちだろう? 帰り道が一緒の方向かどうかもわかんない。

ぐるぐると余裕のない頭で考える。すると、ふとお互いに無言になってることに気がついて顔を上げた。
目に飛び込んで来たのは、わたしをじっと見つめてる西嶋さん。

その視線に、余計に緊張感が増したわたしは、小汗をかきながら必死に会話の糸口を探る。
そのとき、彼の方から口を開いた。


「時間、大丈夫なら、もう一軒行く……?」
「えっ……」


うわ……うわっ! それって、わたしと一緒にいて、つまんなかったってことじゃなくなるよね?もっと自惚れれば、もう少しわたしといてもいいかなって思ってくれてるってことだよね?
それってすごいことじゃない?

こんなふうに誘われたりすることが、大人になってから一度もないから。だから、素直にすごくうれしくなってしまった。

……けど。

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