イジワル上司に恋をして
「かなり、悔しかったから」


閉店作業を終え、いつものように残業しているブライダルの社員さんたちに挨拶をして、先に仕事から上がる。
更衣室に行く途中に、着信メールに気がついて、そのメールを開く。

【すぐ近くのカフェにいます】と書かれていたメールを見て、本当にわたしを待ってるんだ、と少し緊張し始めた。

メールで教えてくれたカフェは、このホテルから目と鼻の先。歩いて行っても5分かからないほど。
着替え終えたわたしは、西嶋さんのところへ向かって歩く。


急ぎたいような、だけど、心の準備がまだなような……。


落ち着かない心境のまま、『落ち着け落ち着け』と、自分に何度も言い聞かせる。
『ああ、そうだ。違うことでも考えよう』なんて、単純に思いついて、西嶋さんへの緊張を忘れようと他のことに意識を向けた。

別の方向に考えを変えようと、行き交う人々を眺める。

仕事帰りの人、飲み会で次の店に移動中っぽい団体。楽しそうに、ショップ袋を両手に持って笑いながら歩く女の子たち。
だけど、なんとなく、やっぱり目に付く気がするのは……仲良さげに手を繋いで歩く男女。


〝なんとなく〟でも、カップルに目が行く時点で、わたしってどうなの……? やっぱり〝羨ましい〟とかっていう、羨望感の現れ? 深層心理っていうのか……。


男性の腕に手を絡めるようにして、うれしそうな顔で見上げて歩く女性。
指を絡め合うように、〝恋人繋ぎ〟をしながら話をしている二人。


……あれ?


そんな二人連れから視線を逸らし、小さく首を傾げる。

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