イジワル上司に恋をして
「内心穏やかじゃなかったな」

『なの花ちゃんって、土曜とか日曜とか休めたりするの?』


その日、夜に電話があって質問された。
目の前にいるわけでもないのに、わたしは部屋で正座をしながらシフト表を広げて答える。


「休み希望を出せば土日でも……あ」
『え? どうかした?』


週末のシフトを指で辿ると、まさかの日曜日公休。


「いえ……その。ちょうどお休みが……」




そうして迎えた初デート……っていうのかな?
晴れて付き合い始めてからの約束だから、きっとそうだよね。

待ち合わせてた新宿駅に着いたら、西嶋さんはすでに着いていた。


「おはよう」
「おっおはようございます!」
「ふふっ。朝から元気だね」
「えっ。そ、そうですかね……」


西嶋さんこそ、朝から爽やかですね、って頭の中で言いながら、慣れない雰囲気にもじもじとする。
そのわたしを知ってか知らずか。不意に右手を取られ、びっくりして顔を上げた。


「行こう」


ニコッと白い歯を覗かせて。可愛らしい笑顔で言われると、素直に従うしかない。
……いや、別に手を握られて嫌なわけじゃないけど。ただ、ちょっとだけ、構えてしまうから……。

本当は思いっきり、繋がれた手に意識がいっているんだけど。それを気にしてないフリをするように、平静を装って隣に並ぶ西嶋さんに尋ねる。


「あの……どこへ?」
「江ノ島」
「江ノ島?!」
「うん。せっかくだから、ロマンスカー予約した。こんなときでもないと乗らないし。あ、でも、一般席しかない車種だったけど。ごめんね」
「い、いえいえ! それは全然っ」


びっくりした! 確かに江ノ島までなら1時間くらいで着く距離だけど……だけど、結構遠出のイメージ。まさか、そこまで足を延ばすなんて思ってなかったから不意打ちだった。

どぎまぎしてると、西嶋さんが前を見ながら言う。

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