イジワル上司に恋をして
「オマエが先約だろ」


それから。
結局、いつもと同じ時刻にショップに戻ったわたしは、香耶さんや黒川に会わないことを祈りつつ。
とりあえずは、顔を合わさなかったけれど、勤務中には必ずどこかで顔も合わせれば声だって掛けられる。

ひとりその緊張感を感じながらレジにお金を入れつつ、誰もいないショップを見渡して「はーっ」と息を吐いた。
それから、本当は〝あのとき〟にしようとしていた、発注の確認作業をする。

手を動かしながら、頭の中は違うことを考える。


ああ。今日に限って通しだし、美優ちゃんいないし。
遅かれ早かれ、絶対あの二人とは言葉を交わす羽目にはなるんだけど。
でも、せめてもう少し気持ちが落ち着いてからにして欲しいんだけどな……。


しとしとと降る雨音を聞きながら、今朝の早出した自分の行動に後悔しつつ開店準備を着々と進める。

もうすぐ開店時間だ、とレジの足元のBGMをセットし終え、立ち上がったとき――。


「落としモンだ」
「わっ!!」


目の前に突き出されるようにされた用紙にも驚いたけど。それ以上に、そこにいる人間そのものの存在が一番びっくりしてしまう。

くっ……黒川……!!

ヤツはいつも通り、何食わぬ顔でわたしの前に立ち、むしろ『なにこの程度で声上げてんだ、バカか』とでも言うような顔つきだ。
わたしはと言えば、あからさまに目を泳がせつつ、目の高さに突き出されたその紙を震えそうな手で受け取る。


お、落ち着け。落ち着け、なの花!
こんなにわかりやすいほど動揺する方がかえって危険だって!
きっと、今朝のことは気付かれてないはず。誰かがいたって認識されてたとしても、それがわたしだなんてことは絶対――……。


必死に冷静さを取り戻そうと、自分に散々言い聞かせていながら、今受け取った紙を見て愕然とした。
白いコピー用紙が数枚。それが、少し小さめに折りたたまれてる状態の、コレは……。

今朝、カバンに軽く突っ込んだはずのメーカー休業日リスト……!!

< 218 / 372 >

この作品をシェア

pagetop