イジワル上司に恋をして
「あの人が、好きなんだ?」


服を着替えて、軽く化粧をした。
少し散らかってたキッチンと部屋を整理して、部屋を見渡す。

……だ、大丈夫……かな?

大人になってから男の人とつきあったことないわたしは、当然一人暮らししてから家に男の人をあげるのも初めてで。
そわそわとしているところに、ピンポンとインターホンが鳴った。


「……はい」
「こんにちは」


そーっと窺うようにドアを開けると、昨日のことがまるでなかったかのように、爽やかな笑顔を浮かべた西嶋さんがそこに立っていた。
その陽射しを背負った彼を細目で見ると、一歩引いて玄関に招き入れる。

パタン、とドアが閉まると、いやでも昨日のことを思い出して……。


「顔色、いいね」
「えっ。あっ……」


気まずい思いをなるべく表に出さないように。
必死で取り繕いながら西嶋さんを見て、歪な笑みを浮かべて言った。


「はい。おかげさまで……すごい寝たので」
「休みで良かったね? ああ、何が好きか聞かないで色々買ってきちゃった。食べれる?」


カサッとビニール袋を差し出されて、それを両手で受け取る。
あわあわとしながらお礼を言うと、お世辞にも広いとは言えないワンルームの住処に上がってもらった。


「なにか飲み物用意します。コーヒーとかお茶とか、なにがいいですか?」
「いや、いいよ。まだ本調子じゃないでしょ」
「あ、でもわりともう……」
「ああ、でも」


キッチンに向かいながら会話をしていると、西嶋さんが言葉を止めたから、不思議に思って振り返る。


「なの花ちゃんの淹れたお茶。飲みたいな」


ほんのちょっとだけ。苦しそうに笑ってるように見えた気がした。


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