イジワル上司に恋をして

「な、なんで……。どうして、雨なんか降ってんのよー……!」


まるで雨音に気付かなかったわたしもわたしだけどさ。
でも、仕方ないじゃない。耳に音が届かないくらいに、アイツの呪縛がいろんな神経を支配されてるんだから!


『このくらいなら、駅まで走ろう』とか、そんな生易しい雨じゃなくて。
ザァァと激しい音と、目の前をちょっとした小川のように流れる光景が、そんな気を完全になくさせた。


えぇー……今日って雨予報だったっけ? いや、でも確かに曇ってはいたけど。
あ、今朝はだるくてやる気しなくて、天気予報チェックなんか忘れてたんだ。

それもこれも――――。


「アイツのせいじゃん!」
「『アイツ』って?」


すぐ後ろから聞こえた返事に、背筋がピンと伸びる。そして、振り向かなくても簡単にその人物が誰かなんてわかった。

今の今まで、頭から離れなかった、アイツだ。


「な、ん……で」


ここにいるんでしょうか。

あんな裏の顔を持ってても、ブライダルサロンの部長には変わりないんですよね? なんでこんな早い時間に、この人は帰るの?


こんなこと言っても自慢にはならないけど、わたしは契約社員だし、ショップの方だし、ブライダルとは違って、残業と言うものはない。

そう! ブライダルって、残業をたくさんしてる部署!
そして今の時刻は、午後の20時半。こんな時間に。なぜ。


< 27 / 372 >

この作品をシェア

pagetop