イジワル上司に恋をして

「……オマエ、〝カレシ〟と約束してんじゃなかったのか? 早く行けよ。振られてもしらねーぞ」


…………は?

黒川の意味不明で突拍子もない言葉に、あれだけ固く閉じてた口が呆けるように開いてしまう。

「カレシ」ってなに。「振られてもしらねー」って……なに、言ってんの、この男は。
そのカレシとは、別れることになったって今日アンタに直接話したばっかりでしょうが。

唖然として、時間が止まったかのように黒川に視線を送り続ける。
その視線を何食わぬ顔で受け止め、ふいっと目を逸らしながらヤツは言う。


「お疲れ」


ん、なっ……。なによ、なんなのよ!
この間待ち伏せされたときには、上手いことわたしを利用して無理矢理連れ出したくせに!
今日は自分の聞かれたくない過去を晒された後だからって、わたしを追い返すなんて!

なんて自分勝手なヤツ!


「――お疲れさまでしたッ!!」


カバンを持つ手に力が勝手に込められる。
そして、思い切り生意気な言い方で挨拶すると、二人を見ることもせずに歩き出した。


アイツの自分勝手なんて知ってたけど! だけど、ムカツクもんはムカツクんだから仕方ない。

ずんずんと大股で歩き進めながらイライラとする。
当然、黒川が追いかけてくるなんてことは起きるわけがなくて。
しばらく歩いて地下鉄手前の信号で立ち止まってるときも、わたしのそのイライラは継続されていた。

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