イジワル上司に恋をして

「ちなみにオレは、さっきのキス見せられて堪えたけど。まさか、あんな光景見せられるとはさすがに予想してなかったしな」
「あっ、あれは! 口じゃないし!」


真顔で責めてくる黒川に、咄嗟に言い訳が口から飛び出る。
言い訳といっても、嘘じゃない。さっき西嶋さんが触れたのは、わたしの唇じゃなく、その横の頬に近い位置。

そういえば、あのキスの直前、「ごめん」と言った意味がわかった。
〝わざと〟の行為だったからだ。


「へぇ、そう。でもなかなかの打撃だったし、この傷、癒やしてもらわないと」
「なっ……それだったら、わたしだって! 何度傷つけられたと思ってんの?!」


言い返した途端、まるでその返答を待ってたかのように、黒川の口元がニッと僅かに上がった。


「……その傷、オレがつけたんだよな?」
「はぁ?!」
「傷つけられると、心に残るよなぁ?」
「は……?」


『なに言ってんの?』と怪訝な目を向けた矢先、なにかを企んでる顔に気付いた。
微笑の黒川が、静かに放った言葉。


「傷ついた分、オレの存在も刻まれたよな?」


……こ、んの、ドSオトコめっ!


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