イジワル上司に恋をして

「そんな顔してません」
「はぁ? やっぱバカだな、オマエ」


なにをぅ?! と、それこそ深いしわを眉根に作って、わたしは黒川を見上げた。
そのしわに向かって、グーが飛んできて軽く小突かれながら言われる。


「昨日も言っただろ。顔にまんま、出てるっつーの。“西嶋くん”とのことが」


語尾を強めに言われた言葉に、わたしは咄嗟に両手で自分の頬を覆った。


うそ! そんなにわかりやすい? そんな顔してる? っていうか、“そんな顔”ってどんなだ?!
それって、コイツだけじゃなくて、もしかしたら香耶さんとか美優ちゃんとかにも、今まで気付かれてたかもしれない?!


青褪めたわたしを見て、黒川がとどめを刺す。


「どーせ、たいした連絡も出来なくて嘆いてたんだろ」


容易く言い当てられて、返す言葉も見つからない。
ガン、と鈍器で頭を殴られたように大きな打撃。わたしの残りのHPはわずかだ。

どうにか自身で立ち直ろうと、プラス思考を働かせる。


そう! 確かに大したメールは出来なかったけど! でも、その続きがあるんだから!


俯き始めた頭をグッと上げて、わたしは冷酷上司と対峙した。
そして、つい、言わなくてもいいことを口にしてしまった。


「でも! 今日、昨日の仕切り直しすることになりましたから!」


……あ。
一番言いたくないヤツに、わたしの唯一のトップシークレットをばらしちゃった……。
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