イジワル上司に恋をして
「90個のうちのたった3個……か」
顎をテーブルに置きながら、指で箱を弾き、独り言を続けた。
明日、ブライダルは全員出社で、全員が仮に5個ずつ持ち帰ったとしても、黒川を抜いて……。
簡単に計算しても、50個は余りそう。それをどうするんだろう。やっぱり破棄? もったいないなぁ。
ぶつぶつと、まるでバームクーヘンに話し掛けるようにわたしはぼやく。
顔を上げ、包みを開いて箱をそっと開けてみる。
薄紙に包まれたバームクーヘンを、わたしはそっと手に取った。
「『幾重にも重なった年齢のように、夫婦がいつまでも一緒にいられますように』か……」
その言葉は、ブライダルにお茶を提供するときに時折聞こえてくる社員の言葉。
いつの間にか、そっくりそのまま耳に残り、覚えてしまった。
二人掛けのソファに頭だけを乗せ、天井をぼんやりと見つめる。
なんとか、明日の婚礼は無事に遂行出来そうだよね。
モノはちゃんと用意できたわけだし、香耶さんも、きっとミスを感じさせない程、ちゃんとリードして式を進行しそうだし。
「婚礼、か」