イジワル上司に恋をして

いつかの残業した日、ブライダルの社員の会話を思い出す。
『新婦とお姉さん』とか『仲直り出来たら』とか言ってたんだ、確か。ていうことは、何かしらの溝がある状態のままの婚礼ってこと?

なんとなくいきさつを察してきたわたしは、黙って成り行きを見届ける。

一歩一歩、花嫁の妹に近づく姉。そして、いよいよ正面に辿り着いたら、少しの時間、二人は見つめ合っていた。
すると、香耶さんが新婦にブーケを差し出した。2コ目の、和装用ボールブーケだった。

淡いピンクの打掛の新婦は、ちょっと濃いめのピンクで合わせたボールブーケ。そして、香耶さんが出してきたブーケは、深い緑色をベースに白も取り入れた、同じ形のブーケ。
それは、緑色の振り袖を纏ったお姉さんにぴったりと合わせた色のものだ。


「……当たり前でしょ。もう……恥ずかしいな」


いつしか、しん、とした空間に、マイクを通さないお姉さんの声が微かに聞こえた。


「ごめん……」
「――いいから。ほら、早く……!」


涙声の新婦に、リードする姿はやっぱり姉だな、と思った。
細かな理由はこれだけじゃわかんない。それでも、姉妹の関係が、この瞬間にまた繋がったように見えたのは、きっとわたしだけじゃない。

盛大な拍手と共に、二人でぎこちなく、照れながら会場をあとにした。
わたしが立つ隣の入り口から、完全に二人の姿が見えなくなると同時に、また、ゲストがざわざわと話し出す。

だけど、わたしの視線はずっと、隣の扉に留まったまま。

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