*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「…………沙霧お兄さまがお姿を隠されてから、もうずいぶん経ちましたよね。


公卿たちの中には、『もはや沙霧宮さまは戻られないだろう』と言う者が多くなっているのだそうです。


さらには、『沙霧宮さまがおられないものとして、日嗣の御子をどの宮にすべきものか考えねばなるまい』という話も出はじめて………」






明子は静かに頷いた。




沙霧宮が見つからなければ、そのような話が早晩出てくるのも仕方ないだろう、と明子も考えていたのだ。







「正直、まだ僕は、お兄さまが本当にこのままお戻りにならないのだとは、考えたくないのですが………。


人々はそのように悠長にもしていられないようで………」






「そうね………日嗣の御子がいつまでも決まらないままでは、政も安定しないと考えるのも、当然のことですもの」






「…………ええ」







朝日宮は眉根を寄せて俯いた。





明子はかすかな笑みを浮かべながら朝日宮の傍らに移り、励ますようにその肩を叩いた。







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