もしも君と恋ができたら
もしも君と恋ができたら


桜のつぼみが膨らみ始めた季節。


陽射しは暖かいけれど風はまだ少し冷たい。


「ふう……」


ダンボールに荷物を詰める作業を一旦中止して、外の空気を吸おうと窓を開けた。


穏やかな風が部屋の中に入り込んできて、わたしの髪をさらりと靡かせる。


階段の下からあかりー、という声がして、すぐにお母さんが二階に上がってきた。


「どう? 調子は」


そう言いながら、持ってきたウーロン茶を机の上に置いてくれた。


「まあまあ。思ったより持っていきたいものが多くてさぁ」


わたしは肩を竦めて散らかった部屋の中を見回した。



春から社会人。


家を出て、憧れだった一人暮らしを始める。


少しずつ向こうに運んではいるけどまだまだ。

残りの荷物を週末までにやっつけてしまいたくて、朝からずっと荷物を整理している。


「さみしくなるわねぇ。あかりがいなくなると」


お母さんがため息をつく。


「大丈夫だって。慶介もいるじゃん」


「あの子はあかりみたいに、私の話を聞いてくれないもの」


慶介はわたしの弟だ。


高校生の彼は最近夜まで遊びまわることが多くなって、小さい頃より口数もぐっと減った。

小さいときのように話してくれないのは、わたしも寂しく感じている。


お母さんは口を尖らせていたが、あ、と言ってわたしを見た。


「明日、しょうくんが引っ越しの手伝いに来てくれるって」


「えっ……」


< 1 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop