猫を追いかけて……。【短編】
猫を追いかけた先に
結婚して三年が経った春のこと
夫はこの世を去った。

何がいけなかったんだろう。

知らないうちに
無理をしていたのだろうか。

それとも元より
そういう運命だった
だけなのだろうか。

医者は言う。
こう言ったことは
誰にでもあるんですよ。

若い人にだって
あり得ることです。

まるで確率の問題だよと
言いたいのだろうか?

その確率に当てはまる
何%の人達だけが
突然にその命を終わらせてしまう。
あなたのご主人は
その何%の内の人なんですよ、
と。








彼はパティシエだった。
パリ市内にある有名店で
二年もの間
修行をした後
帰国して

お互い離ればなれに
なっていた時間を埋めるべく
直ぐに結婚し
そして
小さくとも自分の店を持つ
と言う彼の夢は
いつしか私の夢となり
私達は
その資金を貯めるべく
兎に角
働いた。

当然
子供を授かる準備も
余裕もなかった。

けれど
それでも幸せだった。
私達にはこれからいくらでも
時間がある。
夢がある。

先ずは店を持つという夢を叶え
それからでも
全然、遅くはないと考えていた。

が、ある時
それらの夢は
意図も簡単に
崩れ落ちていった。

世界中でたった
ひとりぼっちになった気分だった。

その時に初めて思った。
彼がこの世から
居なくなった今となっては
やはり彼に似た忘れ形見が
欲しかった。

どうしても。

一人じゃないんだ
という確かな証が
欲しかった。

親兄弟達は
子供が居なかった事を
救いだと言った。

籍に傷は付くが
大した事ではないと
私からすると
的外れな励ましをされた。

もちろん
私の事を思っての事と
理解は出来るものの
だからと言って
そんな風に実際
思うことは出来ない。

そんな風になんて
思えない。





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