センセイの白衣
第1章 ひだまりの思い出

センセイの笑顔

あの午後は、生物講義室に光が溢れていたね―――


まだ、先生のこと何にも知らなかった私。

高校一年生だった私。


あの光あふれる午後のこと、一生、忘れない。





「板書が綺麗で、消すのもったいない。」


「晴子、先生いるからね。」


「え?」





振り返ると、そこには嬉しそうに微笑む先生がいた。

先生以外に、何も見えなかった。





「あ、」





思わず、顔が火照った。

こんなに近くに先生がいるのに、先生の書いた板書を素直に褒めてしまった。





先生は、生物講義室の掃除監督だった。

一週間交代で、いろんな場所の掃除が回ってくる。

でも生物講義室は、たまにしか来ない。


いつも、教室の端の方で存在を消すようにして立っている先生だった。

あんまり笑わない先生だった。


最初と最後の挨拶のときだけ、環に加わって。

それ以外に、余計な口は全くきかない先生。

そんなイメージしかなかったのに。






あの日、初めて笑顔を見たんだ。


先生に気付かなくて、黒板の字を褒めた、あの日。


先生は、覚えてる?




きっと、覚えてないだろうね。
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