センセイの白衣

疑念

実を言うと、その頃の私には、悩んでいたことがひとつあった。

それは、父親のこと。


物心ついたときには、母と祖母と三人暮らしだった。

だけど、父親がいないことで、私が不足に感じたことはなかった。

深層心理ではどうか分からないけれど、私が覚えている限り、寂しいと感じることもなくて。


ただ、保育園に通っていた時。

名札の裏に、保護者の名前を書く欄があって。

それを見付けた子どもたちが、見せ合っていた時があった。



「晴子ちゃんも見せてー!」



最後まで隠していたのに、みんなに迫られて、仕方がなく名札を見せた。



「あれ?晴子ちゃんの、なんでお母さんの名前なの?」

「あ、ほんとだ~」

「なんで~?」



みんなに問われて、私ははっとした。

そうだ、何でなんだろう。

何で、私にはお父さんがいないんだろう。



「私、お父さんいないの。」



はっきりと答えると、みんな、ふ~ん、と言って去って行った。

だけど、私は泣きそうになっていたんだ。



なんでなんだろう。

みんなにはいる、お父さんというものが、どうして私には、いないんだろう―――



その気持ち、その強い気持ちを、私は忘れたことはなかった。

いつか、小さい頃に親に尋ねると、「お父さんは死んじゃったの。」と言われた。

だけど、私は、信じなかった。

うちのお父さんだけ、死んじゃうはずはないって。

そう、思ってた―――
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