センセイの白衣
次の日は、文化部門。


先生に会いたくて、生命科学部を覗いたけれど、先生はいなかった。

生物実験室の中で動き回る、白衣の生徒たち。

あーあ、どうして私は生命科学部じゃないんだろう。


ただでさえ、文芸部に秘密入部した私は、兼部なんてできるはずもなく。

かといって、文芸部を辞める気は全くない。

そもそも、こんな中途半端な時期に、部活に入る勇気なんてない。


大体、川上先生は副顧問だから、ここに入ったところで関わりもそんなにないだろう。



諦めてふらふらと歩きながら、何となく音楽部の発表が始まりそうだというホールに吸い込まれる。

『オペラ座の怪人』かあ。

ふーむ、聞いたことはあるけれど、ストーリーは知らないな。



だけど、しばらくして発表が始まると、私は舞台に釘付けになった。

う、うまい……。



ファントム役の先輩の歌唱力が半端ではない。

ホール全体に響く、低めの綺麗な声。

聴いている誰もが、ファントムに恋してしまいそうな、その声。



ホールを出る頃には、大分魂を抜かれたようになっていた私。

『オペラ座の怪人』も、音楽部も、大好きになってしまった。



感動を引きずりながら、階段を上っていると、川上先生が下りてきた。



「横内、一人かよ。寂しいな!」


「先生、それどころじゃないんです。音楽部、凄かったんです!」


「音楽部?何やってたの?」


「オペラ座の怪人!もう、めちゃめちゃ感動しました!!」



目をうるうるさせて、すごい勢いでまくしたてた私を、先生は呆れたように見て、笑った。



「ああ、そう。よかったじゃん。」



ああ、今日は何度でもきゅんとできる―――

川上先生とファントムのおかげで、私はしばらく夢の中にいるみたいだった。
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