センセイの白衣

些細な幸せ

登校したら、先生が女の子と並んで歩いているのを見てしまった。

朝からどよんとした気持ちになって、上履きに履き替える。

こういう時、現実を思い知る。

先生は、生徒みんなのものだって。

私にだけ優しいわけじゃないって。


会いたくないな、そう思いながら下駄箱を抜けると、すぐそこに先生がいた。

隣にいるのは、なんだ。

あっきーだ。



「あ、噂をすれば。」



川上先生がそう言って、私は首を傾げる。



「何の噂ですか?」



そう尋ねたのに、先生は軽く笑うだけだった。



「晴子、おはよー!」


「おはよー!あっきー。」


「あ、川上先生、鍵、ありがとうございました。」


「いや。」



あっきーは、川上先生にどこかの部屋を開けてもらったらしい。

吹奏楽部の朝練かな。

嫉妬しそうになった自分が、なんだか恥ずかしい。



「何よ、うわさって。」


「え、別に。」



あっきーも、先生と同じ顔で笑う。



「川上先生ね、晴子のこと、はるちゃんって言ってたよ。最初、誰のことか分からなかった。」


「へ?川上先生が?」



先生はいつも、基本的にみんなを名字で呼び捨てにする。

私も、いつも横内、って呼ばれてた。

それなのに、はるちゃん、って言ってたなんて。

しかも、噂してたなんて。



「嬉しすぎる……。」


「もう晴子!行くよっ!」



あっきーに呆れられても、やっぱり。

私、川上先生が大好きだ。
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