ラブスペル
繋がれる夜
「並木さん、次の特集記事は『ゴールデンウイーク・彼と行くならこんなデート』的なの、良いと思いませんか?」

近頃は仕事も板につき、頼もしくなってきた3年選手の後輩、緒方匠馬(おがた たくま)は、ビールを片手に意気揚々と次の企画を提案する。

私の馴染みのダイニングバーに連れて来たものの、仄かな照明からでも、緒方の顔が赤らんでいると見て取れた。

幾ら若くても、流石に深夜残業続きだった後のもう1軒はきつかったんじゃないの?なんて思いつつ、私は少し温くなったビールに口を付けて、適当にコクコクと頷く。

私、並木美知佳(なみき みちか)は昨年4月から、小中学生向け雑誌『peach』の副編集長をしている。

ファッション雑誌一辺倒だったうちの会社が、新たな世代を囲い込みたいとして創刊したこの雑誌。

創刊1年目の一昨年は、売り上げが捗々しくなかった。

そんなこともあって、20代の女性誌で10年間走り続けた私に、白羽の矢が当たったのだ。

一般的には大抜擢と言うのだろうが、鬼の編集長に年上のママさん部下達、前途洋々な(たまに暴走する)若き部下らに挟まれ、社内ではやっかみ半分、同情半分の微妙な立場。


「でも、その年代の子達なんて、親と旅行とか出かけるんじゃないの?」

「何言ってるんですか、今日びの小中生はそんななまっちょろいことしてませんて。僕だって初デートは小6のゴールデンウィークでしたよ」

緒方は少し自慢気な顔をして私を見た。

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