恋人遊戯



暖かい。先輩と同じぐらい暖かいと思った。



「分かったわ。レージには、何も言わない。後、私の事は礼子何て言わないで、あさみちゃんって言って!」



あ、あさみ『ちゃん』って…。『さん』なら分かるけど…『ちゃん』なの?


思わず笑ってしまうと、あさみさん…ちゃん…の顔も少し和らいだように見えた。




「…あの、もう帰ります…」




「そ? 気をつけてね」



玄関先まで送ってくれたあさみちゃん(…何だかすっごく恥ずかしい…)にお礼
を言って、部屋を出て行きエレベーターに乗って下りると、マンションの目の前に見覚えのある高級車が止まっていた。









…そして、そこには兄さんがいた。



「……やっと、下りてきたか…。いつまで待たすのかと思った」



吸っていたタバコを携帯灰皿に揉み消して、車に乗るように視線で指示してきた。




当然、私もそれに従って兄さんの車に乗る。




「つくづくお前は俺の期待を裏切ってくれるな…。俺の意見したい事があるのか?」




兄さんの上から押さえ付ける言い方が怖くて、私は小さく「ぃぃぇ…」と言ってその場を繕う言い方をした。



「一旦、本家に戻る。昨日の事も、運良く新堂の方も急患が入って日取りが今日に変更した。…いいな。今日は、本家からホテルに行く」



「…はい……」


…もう、戻れない。先輩のあの優しい腕の中に戻る事が出来ない。





……サヨナラ…。



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