オムライス男子とマシュマロ女子


卵は、素早くかきまぜる。


箸を休めない。


フライパンを傾けて寄せて…。


ああ、玉子は固まってる。


切れども切れども、とろーりとはならない。


「大事なこと忘れてる」


「大事なこと?」


「うん。そのオムライスを食べさせたい人。その人が一口食べた時の笑顔を思い浮かべて」


「食べさせたい人…」


呟きながら、あたしはハマチの顔を見つめた。


いや。


食べさせたいったいうか、あたしが食べたいんだけど…。


でも。


もしハマチが、今よりも素敵な笑顔をくれたら、あたしは嬉しいと思う。


ううん。


絶対に嬉しいのかな。


そんなことを思いながら、卵を流した。


菜箸でかき混ぜる様も、板についてきたかも。


「あ、いい感じ」


ハマチの見守る前で、ぷるんとした玉子が完成した。


あとはナイフで…。


とろっ。


「やったー‼」


あたしは跳び上がり、ハマチに抱きついた。


ついでに、お腹もポンポンしとく。


「じゃ、仕上げにどうぞ」


恭しく手渡されたケチャップ。


初ふわとろオムライスに、なんて書こうか。


考えるまでもなく、あたしは、ケチャップを逆さまにした。


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