駅のホームとインディゴブルー
忘れる
今朝はとびきり寒い。

気温もぐっと下がって、北からの風も刺さるように体当たりしてくる。

そして何より、マフラーがない。

お気に入りだったのに馬鹿だ、馬鹿すぎるよわたし…!

どこでなくしたんだろう。

学校を出るときは巻いてて、電車に乗るときにもあって、それで、そう、あのとき電車の中ではずしたんだ。

昨日に記憶が、そして忘れたい顔までもが、今度は鮮明によみがえる。

膝に置いていたのに、手に持たずにそのまま降りちゃって、それから夢中で帰って、マフラーのことすっかり忘れてた。

置き忘れなら、どこかの駅で保管されているかもしれない。

「すみません」

祈る思いで駅員さんに声をかけた。



「届け出があるかどうかお調べしますね。昨日の何時頃ですか?」

「えっと、夕方の6時くらいだったと思います」

駅長室は入ってすぐカウンターになっていて、勧められたパイプ椅子の座面はひんやりと冷たかった。

「何色の何を落されましたか?」

「インディゴブルーの」

「インディゴ…とは」

「あ、藍色の、チェック柄のマフラーです」

向かいに座った中年っぽい駅員さんは、パソコンの画面にくぎ付けになっている。

見つかりますように見つかりますように。

カチカチ、というマウスの音。

ドア越しにくぐもって聞こえるホームのアナウンス。

長い長い時間に思われた。
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