ただ、そばにいて
「今度の金曜日、夏くんが帰ってくるって」



ある日の夜、母からそう聞いて「そうなんだ」とだけ返した私は、内心飛び跳ねたくなるほどの喜びを感じた。

ナツが帰ってくるのは年に三回、長期休業の時だけ。その間は両親のペンションで手伝いのバイトをしている。

だから私とも会う機会が増えるわけだ。


ナツとはメールや電話はほとんどしない。

彼がこの土地を出ていくまでは当たり前のように会っていて、そんな習慣がなかったから。

今更何の用事もないのに連絡をとるのはなんだか気恥ずかしいし、どうしたらいいかわからない。

だから、ナツの情報はいつも母経由で又聞きして知るのだった。


それでも、会うと前と変わらずに接することが出来る。

それは、私とナツがいとこという関係から抜け出していないことを露呈しているようで、少し切なくもあるのだけれど。



「夏くんが来たら皆で花火でもしようかしらね」

「あーいいね。昔よくやったもんなぁ……」

「あんた達、毎日のようにやりたいやりたいってうるさいんだもの。あの時は困っちゃったわ」



夕飯の片付けをする母は、幼い私達を思い出しているようで、優しい表情で笑っている。

まさか私がナツのことを特別な目で見てるだなんて思わないんだろうな……。


いとこ同士で結婚出来るということは知っている。

それでも、ほんの僅かだとしても血の繋がりがある親戚だということに違いはない。

ナツの話が出るたび、親に対しての罪悪感と背徳感は拭えなかった。


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