ギャップのお楽しみ
ギャップのお楽しみ

入社して半年が過ぎ、季節は秋から冬になろうとしている金曜の夜。

研修中に仲良くなった同期との飲み会に、
里美は久し振りに参加できた。

秘書課の実穂(みほ)と企画の北川くんに
経理の真優(まゆ)ちゃんと総務の環(たまき)
そして監査の翔くんこと翔平(しょうへい)くん。

みんな同じ本社勤務だったから、都合がついたもの同士で飲みに行く事があるんだけど、
それぞれ忙しくて全員が揃うことは滅多になく、かれこれ私は一ヶ月ぶり。

「遅れてごめんねー」

「おお!海外の働き蜂おせーよ」

普段ならここは愛想笑いするところだけど、
一つ年上だからって兄貴風吹かせている北川くんとはもうすっかり気心が知れているので、
思いっきり顔をしかめてやった。

「なに北川くん、もう出来上がってるの?」

「あら、経理ですらその噂は届いている
 わよー、蜂ちゃん」

よぉーって、酔うと更にのんびりした口調の真優ちんに苦笑いする。

「やめてよね、真優ちんまで」

「海外は相変わらず忙しそうだねー」

「経理は暇そうだねー」

同じ口調で言うと、真優ちんが口を尖らせた。

「ひどっ」

「ウソウソ、ごめん」

「ねえ、あんたどうやってあの太田部長に
 気に入られたの?」

普段クールで私の事は同い年なのに年下扱いする実穂が珍しく身を乗り出してきた。

「べ、別に……」

うちの事業部の太田部長はメチャクチャ厳しい事で有名で、とにかく彼がGo だと言ったら部下の私達はどんな事をしてもそれをやりとげなければならない。

「お疲れ、久し振りじゃん」

翔くんが私の好きなサワーを渡してくれた。

「ありがとう」

もうすぐ着くよメールをしたから、彼はオーダーしておいてくれたんだ。

こういう然り気無い優しさに、きゅんと
きちゃうんだよね。

「監査はどう?」

「うーん、としか言えない」

「うわっ、守秘義務ってやつ?」

「翔平くん板についてきたよね」

出ました、お邪魔ムシー!

このタイプは苦手な部類。

優等生でみんなに好かれてて、クラスとかで一番かっこいい人とデキてるってやつ。

みんなが美男美女カップルって囃し立てるやつよ。

入社前の研修中から私が目をつけていた翔くんも気づいたら彼女を口説いていて、結局最近二人は付き合い始めたらしい。

「環は伊藤さんにセクハラされてない?」

「またそれ……されてないよ」

総務の伊藤さんは私達の研修担当責任者で
あの研修中、彼女を狙っていた。

環は彼をフったって知ってるけど、なんか悔しいからつい意地悪な事を言ってしまう。

「あの人実家が資産家らしいよ?
 玉の輿狙えたのに。今からでも……」

「松岡、環に変な入れ知恵すんなよ」

あーあ、なにその翔くんの顔。
つまんなーい。

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