ギャップのお楽しみ

「田辺くん……ッ願い…もう…」

彼の手は脇や背中を撫でながら、更に上に這い上がろうとしている。

「里美、俺のもんになるって言って」

「…んっ………無理っ…」

バッと離れた彼は荒い息を吐きながら、私を悲しそうな瞳で見つめた。

「……他に好きな奴がいるのか?」

苦しげに歪む彼の顔を見て、苦笑いする。

肝心な事を言ってないのは田辺くんなのに。

「好きな奴?あなたにはいるの?」

落ち込んだ顔が明らさまに輝いた。

「松岡里美、おまえが好きだ」

「いいわ、とりあえずお試しね」

クスクス笑いたいのを堪えて、必死で真面目な顔を作った。

「それは……クソッ前言を撤回する」

彼の口がへの字に曲がってる。

「撤回するのは『おまえが好きだ』の
 ところ?」

言ってから、ふいに突然熱いものが込み上げてきた。

誰かに好きだって言われたのは初めてのこと。

いつも私の方が好きだって追いかけてばかりいたから。

「里美が本当はデキル女だっていうのは
 わかってると伝えたつもりだぞ?」

そうよ、こんな風に私の中身を見て好きになってくれた人は初めてだから……

「……うん」

彼がはあっーと甘いため息をついた。

「だからさ、そういうのは先にとっとけって
 言ったのに、こんなとこは不器用って…」

彼の手が優しく涙を拭って、そのあとを唇がなぞっていく。

「もうつまんなくなった?」

飽きられるのが今から怖い。

「ちげーよ、バカ」

そう言って心ごと包み込むように優しく私を抱き締めて、田辺くんが耳元で囁いた。


「初めからこんなにメロメロにされたら
 俺がもたない」


きゅっと胸が甘く痛んで、彼に思いきり抱きつくと同じ強さが返ってくる。

私だって冴えない風貌の下に隠れた顔も中身もイケメンのあなたにメロメロになりそうよ。

「前髪は切らなくていいわ」

「何でも言う通りにするから触らせて」

「やっ、ダメよ」

またシャツの裾から入ってきた手から逃げるように離れた。


「里美ー?田辺?まだそこにいんのか?」

階段の上から北川くんの声がした。

「俺と帰るんだよな?」

「うん」

差し出された手を繋ぐと『今はこれで我慢するか』って、私の手を撫でる彼と笑いながら階段を上がっていく。


そうされて気持ちいいのは
あなただけじゃないって教えてあげるのは
もう少し後にするわ。


だってお楽しみは後にとっておくのがいいんでしょう?




Fin
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