僕のonly princess


*…*…*…*…*…*…*…*…*…*



私の家は所謂、母子家庭だった。


私には生まれた時から父親がいない。
どうして父がいないのか、幼い私にはその理由はわからなかった。
保育園の父親参観に他の友達はみんなパパが来てくれるのに、私の所へ来てくれるのは母だった。


父親だけではない。
私にはおじいちゃん、おばあちゃんと呼べる人達もいない。
敬老の日だと言って保育園で絵を書くように言われても、誰を書いていいのかわからない。


私のそばにいてくれるのは、いつも母だけだった。


『どうしてゆいかにはパパやおじいちゃんやおばあちゃんがいないの?』


幼い私は何度も当然の疑問のようにそれを母にぶつけた。
母はその度に悲しそうな笑顔を見せて、『ごめんね』と謝るだけ。


いつしか、そんな母の悲しそうな笑顔を見るのが嫌になって、私はその質問を母にすることをやめた。


そんな母は私が寝た後、時々、一人で一枚の写真を見ていたのを私は知っている。
どんな写真なのかはわからないけれど、その写真を見つめる母はとても穏やかな顔をしていて、愛しそうに微笑んでいた。


今思えば、アレは私の父の写真だったのかなと思う。


その写真を見つめる母が一度だけ、消えるような声で名前のようなものを呟いていたから。
それは男の人の名前だったと、薄らと私の記憶の中に残っている。


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