甘く熱いキスで
すべての家具に炎が回ると、ふらついた足で立ち上がったベンノがライナーに呪文を放とうとするのを感じ、すぐに呪文で対抗する。

ぶつかる炎はライナーが気を強めると一層燃え上がり、ベンノの炎を飲み込んで散る。

「お前は私に買われたのだ!カペル家の利益を生む道具が、己の意志を持てると思うな!」

呪文で呼び寄せた剣を片手に向かってくるベンノ目掛けて、ライナーは炎の剣を飛ばした。この近距離でこれだけ大きな”的”に命中させることは目を瞑っていてもできるだろう。

いくつかの剣はなぎ払ったものの、ベンノの腕や足には数本が刺さり、ベンノは床に再び倒れこんだ。傷口から赤く飛び散る鮮血は、すぐに炎と混じって色がわからなくなる。

「ぐ……ぅ、ラ、イナー、おま、えはっ」
「これから貴方の称号は……そうですね、愚かな老いぼれというところでしょうか。議会での権力に目が眩んで狂った罪人たちの息子を金で買ったバカな人間。私はこれでやっと、このバカバカしい人生を終わりにできる」

そう、最初から生きる意味なんてなかった。

自分は望まれなかった命で、名前も、身分も、何もかも……与えられるべきではなかった。どれも、ライナーには必要なかったものだ。

無理矢理作った“意味”はユリアに愛されるという結果を生み、ライナー自身にも許されるはずのない感情を植えつけてライナーを苦しめる。

楽になりたくて、決めた終着点に迷う日が来るなんて思ってもいなかったのに。

焦げた匂いが部屋に広まっていく。視界を覆う煙の苦さに涙が出そうになった。

「お世話になりました」

そう言い残して、ライナーはカペル家を後にした。
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