甘く熱いキスで
「それでもいいよ……忘れなくてもいいし、忘れろとも言わない。ただ、俺は、ユリアのことが好きだから守りたいんだ。ユリアだって、ライナーのことが好きだから……あいつのそばにいたんだろ?」

弟だと思っていたアルフォンスの腕は、軍で鍛えられて太く逞しい。ユリアを包み込む熱はユリアがライナーに向けるものと同じ。

こんなにも、自分を想ってくれる人間は多くない。

どうしてユリアはアルフォンスを好きになれなかったのだろう。どうして、こんなにも弱っている心でさえ、ライナーに向いてしまっているのだろう。

「ユリア」

優しく呼ばれた名前は、ライナーの声ではなくて。

「好きだ……」

一番言って欲しかった言葉を紡ぐのも、ライナーではなくて。

「結婚しよう」

ユリアの望む返事を、ライナーはくれなかった。

理屈じゃない。本能で選んだユリアの“キス”は、もう戻ってこない。

アルフォンスの影がユリアに落ちる。ゆっくりと縮まる距離を、ユリアはぼやけた視界で見ていた。

アルフォンスの気持ちがわかってしまう自分、アルフォンスの手をとることが一番簡単で安全なお腹の子を守る道だと、ずるい考えが過ぎる。

そして……アルフォンスの唇がユリアのそれに重なったとき、閉じた瞳の端から伝う涙は熱くユリアの心を焦がした。

想いの熱さが違うキス――ただ、つらくて。傷ついた心からしみ込む熱にユリアはまた泣いた。

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