甘く熱いキスで
名簿を閉じては開いていくユリアをしばらく見ていたエルマーは、呆れたようなため息をついて別の名簿を手に取った。

「どんな奴なの、その運命の男は」
「礼儀正しくて、丁寧な人だったわ。タキシードはちょっと安っぽかったけれど、所作は綺麗だったし、それなりの家の子息だと思うの。それから……気の使い方に優れていたみたい。呪文が綺麗に消えたわ」
「ふーん。呪文が得意なら精鋭部隊に配属されたかもね」

精鋭部隊はフラメ王国軍の中でも攻撃型の特殊部隊だ。剣術や体術に加えて呪文も得意とする人間が選ばれて配属される。最近は大きな戦争などもないから国境警備の指揮を取る程度の任務が多いようだが、本来は戦闘の激しい地域に送り込まれる目的として設立された部隊である。

エルマーが手に取った名簿を覗き込むと、1ページ目のリストには10人しか名前が載っていない。

「少ないのね」
「最近は、彼らが必要になることも少ないからね」

そう言って、エルマーはページを捲った。2ページ目からは写真とその人物の体格や能力が記されている。

しかし、ユリアの記憶を刺激するような顔には出会えない。

ダメかと思ったが、最後のページを見て、ユリアは思わず「あ!」と声を上げた。

「この人かもしれない!精鋭部隊なら、呪文競技場よね?確かめてくるわ!」

彼が呪文を使うところを見れば――彼の気を感じることができれば――本人かどうか確認できる。

「ちょ、ちょっと待って、ユリア。こいつは――」

エルマーの制止も聞かず、ユリアは執務室を飛び出していく。勢いよく閉まった扉を見て、エルマーは表情を曇らせた。

「これまた、やっかいなことになりそうだなー」

エルマーは手元の名簿に視線を戻し、その男の名前の文字を指でなぞった。ライナー・カぺル――ユリアの運命は神の悪戯か、それとも人間の執念か。

エルマーはため息交じりに呪文を唱え、人差し指に炎を灯した。
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