甘く熱いキスで
ライナーの両親の恋は、許されないものだっただろう。特にユリアやライナーの親世代の頃、タオブンとファルケンの対立は激しかったという。

そんな中、2人の間に生を受けたライナー。事情は詳しくわからないが、ライナーを愛してくれたはずの彼らと別れ、自分を気にかけてくれる人間が1人もいない環境に突然放り込まれた。フラメ城で穏やかに暮らしていたユリアには想像できないほどつらい思いをしたに違いない。

ユリアにできることはないだろうか――そういう思いは、結局ユリアのエゴなのかもしれない。ライナーに近づくための手段を、理由を……探している。それはライナーのためではなく、ユリアのためのものだ。

ユリアがどんなに尤もらしい理由を考えついたって、ライナーがそれを認めてくれなければ、ライナーにとってユリアの気持ちはただの同情になってしまう。

もどかしい。自分の気持ちを正確に伝える術をユリアは持っていない。

ユリアはスタートポイントに立ったライナーを見つめて、膝の上の手を握り締めた。

「ライナー……?」

視線の先のライナーが走り始めてすぐ、ユリアは異変に気付いた。

いつもの流れるような走りではない。ほんの少しではあるが、地面を蹴る足の動きに違和感がある。

そしてライナーが一番目の的に呪文を放ったとき、ユリアの違和感は確信に変わった。

ライナーの気が荒い。鋭く一直線に放たれるはずのそれは、僅かにブレて的の急所を外す。それでも、最初2・3個をギリギリで貫いた後は、きっちりとすべての的を落とした。

その後、何やら注意を受けたらしいライナーは、深く礼をして待機場所に戻る。

ユリアは目を凝らし、歩くライナーの足元を見る。彼の歩き方は少しばかり足を引きずっているような気がした。一体、どうしたというのだろう。

ユリアは残りの兵士たちが演習を終えるまでの間、いつもより何倍もの時間を感じながらライナーから視線が逸らせなかった。
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