甘く熱いキスで
「エルマー伯父さん、カイです」

カイはエルマーの執務室の扉を軽くノックした。すぐに中からエルマーの返事が聞こえて、中へと入る。

エルマーはソファに座って寛いでいた。執務机には――おそらく精鋭部隊からの報告書だろう――紙の山が出来ていたが、カイのために時間を作ってくれたらしい。執事か侍女に淹れてもらったのか、ローテーブルには湯気の立つティーカップが並べられている。

「お忙しかったのですね。すみません」
「いや、ちょうど休憩しようと思ってたから。それで、聞きたいことって?」
「ユリア姉様のことで、ライナーについて調べました」

そう言うと、エルマーはフッとため息のような、笑いのような息を吐いてソファに預けていた背を伸ばした。しかし、特に何も言われなかったのでカイはそのまま続ける。

「ビーガー家が陸軍のトップを追われた理由は何ですか?炎属性の血筋にこだわるファルケンが、王家への謀反を企てるというのは考えにくい。その“謀反”の本当の目的は、お父様の結婚に反対すること――一般国民であったお母様に対するものではないのですか?」

元々武力抗争を好まず、炎属性を皆平等として扱うシュトルツに信仰深いタオブンは、政治上ヴォルフとフローラの結婚に反対してもフローラを傷つけることはしないだろう。

だが、ファルケンは他属性との比較は言わずもがな、炎属性の中でもその血筋や身分にこだわる。普通に考えれば攻撃対象は“格下”のフローラになるはずだ。

「やっぱり、カイが一番に聞きにきたね」

カイがそのことにたどり着くのを予想していたらしいエルマーは少し笑って、紅茶を一口飲んだ。それからカイを真っ直ぐ見つめて再び口を開く。

「そうだよ。ヴォルフがフローラを見初めたとき、攻撃対象はフローラだった。特にファルケンの間では反発も強くて……」

そこで一息置いたエルマーは少し躊躇うように目を伏せたが、すぐにまたカイに視線を戻す。

「マルクスは、フローラに乱暴しようとしたんだ――…」
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