甘く熱いキスで
「では、ベンノ・カペルはなぜ……?」
「さっき言ったようにタオブン牽制のため、それに跡継ぎがいなかったことが一番大きいかな。ライナーはビーガー家で軍人としての教育を受けて、想像以上に優秀な能力を開花させたから、惜しくなったのかも。ユリアの相手としても可能性があると見たんだろうね。現に、ユリアはライナーにベタ惚れだ」

エルマーはふぅっと息をつくと、少し笑った。

「ヴォルフの言うこともわかるんだ。ライナーはマルクスやユッテとは違う人間だから……ユリアに偏見を植え付けたくなくて黙ってる。というより、ユリアが自分でここまでたどり着くことを望んでるんだろうね」

ヴォルフやエルマーの言うことは間違っていない。

けれど、本当にライナーは純粋な気持ちでユリアに近づいているのだろうか。少なくとも、ベンノ・カペルは絶好の機会だと思っているだろうし、ライナーにもそういう指示を出しているはずだ。

ライナー自身がユリアに惹かれていたとしても、きちんと順序を踏まなければそれを利用されてしまう。

「ライナーは、軍人としての実力もユリアの隣に立つためのマナーも備えてる。複雑な家庭事情を乗り越えた忍耐もあるしね。でも――っと、ごめん」

エルマーは途中で言葉を切り、人差し指に炎を灯した。仕事の連絡だろう。

カイは邪魔にならないようにと、軽く頭を下げて執務室を出た。

でも――ライナーを信用するには、あの冷たい眼差しが気になる。エルマーは、カイと同じことを考えているだろうか。ユリアは……ライナーの想いをどこまで正確に把握しているのだろうか。

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