僕は君の名前を呼ぶ

“Dear my father”



「お久しぶりです。突然おじゃましてしまってすみません」


「彩花から話は聞いているわよ。寒かったでしょう、さあ、上がって」




あのあと、彩花に連れてこられたのは彩花の下宿先──彩花の母親のお姉さんの家。


彩花に会いにこっちに来るたびお世話になっていたけれど、冷却期間を挟んだからここを訪れるのは久しぶりだ。




まさか、こんな展開になるとは考えていなかった。


最初は、朝イチの新幹線でこっちに来て、彩花を探して、あわよくば仲直りして、終電に間に合うように帰られればいい方だと思っていた。


それなのに、こんなにうまく事が運んで…。


トントン拍子すぎやしないか。


現実味がない目の前のことに少し足元がふわふわしている。気を抜くと、よろけそうだ。




俺を温かく出迎えてくれた雅子(まさこ)さんは、彩花の母親に似て、真面目な印象。


彼女と同い年の旦那さんの健二(けんじ)さんは、所作が少年みたいなせいか、年齢より見た目が若く見える。


子どもはふたり。ずっと前に東京で就職して、こっちに帰ってくるのはお盆の頃と年末年始くらい、らしい。


正反対なふたりだけれど、家は温かな雰囲気をまとっていた。




「彩花の義理の父親のこと、知ってるか」


美味しい雅子さんの手料理をいただいたあと、健二さんの酒の相手をしているとこう聞かれた。


「ええ、まあ。なかなかデリケートな話題ですし、少しだけ…」


健二さんは「そうか」とつぶやくと、おちょこを静かに置いた。


< 394 / 419 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop