最高のご褒美

「おまえ、目ざといな」

「へ?」

彼は左右のポケットからコーヒーのショート缶を一本ずつ取り出した。

「はい、ご褒美。うっかり出し忘れるとこだった」

「……ありがと」

もう、私が欲しいのはこういうご褒美じゃなのに……。

一本はブラック微糖で、もう一本はミルク増量マイルド仕上げ。

私にくれたのは前者のほう。

まあね……私の好みをちゃんと把握しているあたりが彼らしいけど。

そして、そんな彼は無類の甘党なのだから。

「裕介のそれ、すっごい甘々のやつでしょ。缶コーヒーって、けっこうな量のお砂糖が入ってるの知ってる?」

「この甘さがいいんだよ。理香こそ、甘いもんとか欲しくならないの?」

「なるなる。欲しくなるよ、甘いもの。特に今みたいに疲れているときとか」

甘い言葉、甘い時間……疲れなんてあっという間に忘れされる刺激的な甘さ。

あなたのその手で――とびきりの甘さで心もからだも満たして欲しい。

「理香。おいで」

「えっ」

ひょいと彼に手を引かれ、あっという間に腕の中。

「ご褒美」

「うん」

ちゃんと、わかっていてくれた……。

私の気持ち、望むこと。

彼の手が私の髪を優しく撫でる。

愛しむように、幾度もそっと。

すごく気持ちがよくて、安らいで、身も心もとろけてしまいそう。

私、ずっとずっとこうして欲しかったんだ。

彼の優しさに包まれて満たされて……。

ありのままの自分を取り戻して、認めて欲しかったんだ。

「理香ってさ、いつも甘い香りがするのな」

「え?」

「柑橘系、なのかな。理香に似合ってて、すっごいいい香りでさ――」

髪に感じる彼の吐息に、どきどきして胸がきゅんと熱くなる。

「癒される。理香とこうしてると、ホント……すごく癒される」

「裕介?」

「ご褒美もらってるの、俺のほうみたいだな」

ちょっぴりばつが悪そうに微笑む彼が、とても大切で愛おしい。

彼もまた仕事で何かあったのかもしれない。

たとえ多くを語らなくても察しはつくもの。

「私のほうがいっぱいもらってると思うよ、ご褒美」

「そうか?」

「うん、そうだよ。絶対そう」

手のひらから、あふれるほどに伝わる愛情と信頼。

そっと髪を梳く指先の繊細な優しさ。

私をこんなにも想ってくれるあなた。

そんなあなたの癒しになれる。

これほど幸せで誇らしいことってない。

癒しと自信を与えてくれる、最高のご褒美。

「裕介、ありがとう。すっごく元気でた」

「俺も」

「うん」

見つめ合って、笑い合う。

なんだか気恥しいけど、とっても幸せ。

「あと三十分くらいでなんとかなりそうか?」

「大丈夫」

「俺も残った仕事ちゃちゃっと片付けちまうからさ。早く旨いもん食いに行こ」

「うん」

「よしっ」

そうして彼はご褒美ついでに(?)私の髪に優しいキスをひとつくれた。


会議室をあとにする彼の背中を見送って、また一人きり。

机の上には、あともう少しのやりかけの仕事と、差し入れの缶コーヒーが一本。

甘さこそ控えめだけれど愛情たっぷりのコーヒーをごくりと飲んで、私は再び気合いを入れた。

「さーて、と。一気にやっつけちゃいますか」

一秒でも早く彼のもとへ――。

一緒に美味しいご飯を食べに行くために。

約束どおり、私の話をじっくり聞いてもらわなきゃ。

あ、彼の愚痴もたくさん聞いてあげなくちゃ。

だから、頑張れる。

今日一日のご褒美、二人の甘い夜のために。




【Fin】
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