【完】切ないよ、仇野君
「水高!九州男児の意地ば見せろー!」


二階席から、野太い声援が響き、皆はそちらを振り返る。


そこには、荒商、肥後学、それから菊池の練習試合メンバーが揃っていて、声を出したのは歩君みたい。


さっき泣いていたのが嘘のように、いつもの、太陽みたいな笑顔でこちらへ声援を飛ばしてくれていた。


それを確認した椿は、すっと人差し指を立てた右腕を天井に向けて挙げる。


「行くよ。俺達は、あんた等の想いをしょってね」


こんなことがさらりと言えてしまうのは、顔良し、性格良し、頭も良しの正に『主役級』の人間が故なのかもしれない。


「んぎぃ!何や椿カッコつけが!指曲げちゃるけんな!」


「後輩んくせに生意気じゃ椿!」


「ハァァ!?イタッ!試合前に司令塔潰すつもりあんた等!」


せっかく締まってたのに、いつも通りの空気感になって審判に注意されている先輩達と椿に、私の緊張の糸も切れて、思わず笑ってしまう。


私達水高らしくこうやって、いつまでも夏が続けばいいのにって、願わずにはいられないんだ。
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