【完】切ないよ、仇野君



毎日が目まぐるしかったせいか、どれくらい寝ていたか分からないくらい、寝てしまっていて。


「……ちー、ちー」


この甘いゆったりとした声は、決して物語の主役になれるような人じゃないけど、私にとってはヒーローの声。


瞼を開くと、そこには、幅広の薄い眉毛をとろりと垂れた瞳と同じ曲線に曲げた、泰ちゃんの姿。


「私、どんぐらい寝とったとやっか?」


「もう今日は授業は無かってくらいやな」


ぽわん、といつも通り穏やかな表情をした泰ちゃんの言葉に、まどろんていた意識がクリアになって、保健室の掛け時計に勢い良く首を向ける。


時刻は、16時10分を過ぎていた。


「うっそやろ……私、何時間寝とっとよ」


「慣れんマネージャー毎日頑張っとったけんね。由貴先輩が今日は部活休めげな」


垂れ目を細めて穏やかな表情を更に穏やかに崩した泰ちゃんが、その大きな掌で私の頭を撫でる。


泰ちゃんに撫でられるのが随分久しぶりのように感じる。


これまで数多のボールの侵入をゴールから守ってきたごつごつの、大きな掌の感触が、私は好きで堪らない。
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