【完】女優橘遥の憂鬱
 俺は許せない。
自分を許せない。

海翔君にも注意されて、彼女に悟られないようにしていたんだけど……

どうやら俺の態度で解ってしまったらしいんだ。


どうしたらいいものか海翔君に相談しようとしていたら、彼女の方から会いに行こうと言ってきた。




 その結果、残った切符を有効期限中に使ってしまおうってことになった。


そう……
俺達は三人で、三人だけで東京へと向かったのだった。


海翔君の奥さんのみさとさんには、絶対に気付かれたくない。
彼女はそう思っていたようだ。


だけど海翔君はみさとさんには嘘は付きたくないと言った。





 俺達は結局二人で、駅にいた。
でも其処に二人が駆け付けて来た。


海翔君は俺達の大事な手続きあるから付いて行くと言ってくれたのだ。

俺自身、彼女が何を考えているのか判らない。
海翔君はなおのことだと思った。




 東京駅に着いてすぐにタクシー乗り場に向かう彼女。

俺達はただ思いでの場所へ向かうのだろうと思っていた。


でも着いた場所は……
監督の入っている拘置所だった。


彼女は監督を告訴した時に頼んだ弁護士に、三人分の面会の申し込みを依頼していたんだ。

三人分とは……
俺と彼女と、海翔君だった。


「えっ!? 俺も」

驚くのは当然のことだ。

俺さえも全く気付かなかった、彼女なりのサプライズだったのだから。




 「お父さん」
彼女が言った。

それを聞いて、監督が俺を睨んだ。


「お父さん。彼は何も言ってないの。私が彼に逢いたいばかりに、仕事先で潜んでいたの。彼その時、ヴィアドロローサって言ってたの」


「えっ!?」

俺と海翔君は思わず顔を合わせた。


「エルサレムの哀しみの道なんだって。目の前に広がる景色がそれに見えて彼号泣してた。監督……お父さんの傷みが彼を捉えて放さなかったの」


「俺の傷みか?」


「そうよ。お母さんを愛していたんでしょう? でもね、社長はお母さんを奪ってなんかいなかったの。社長はただ、お母さんのことが好きなだけだったの。だから、行方不明になったお父さんの代わりに私を育てようとしてくれただけなの」


「そうだった。彼奴はそう言う奴だったな」


「私……、告訴を取り下げようかと思うの」

ポツンと言った彼女に、皆の視線が集まった。


「だから……、社長を恨まないで。全て……あの三ヶ月が……」

彼女はそう言いながら泣き崩れた。




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