【完】女優橘遥の憂鬱
 「申し訳ありません海翔さん。貴方をこんなトラブルに巻き込んでしまって……」


「本当にだな。あのハロウィンの悪魔の撮影さえなければ、海翔君夫婦に迷惑を掛けることもなかったんだな」


「いや、あの撮影自体がなかったなら、俺達夫婦は出逢っていなかったんだ。これはきっと橘遥さんと、あの監督のお陰です」


「そうだな。俺がクビになっていなかったなら、又運命は変わっていたかもな」


「全てはあの時の……あの一瞬が招いたことなのですね」


「俺は……みさとを愛していたたことをあの時思い知らされました」


「弟さんから、あの新宿東口のイベント広場で、貴方が拉致された娘さんのお兄さんだと聞かされていたからビッグリしました。だから結婚されたと聞いた時は耳を疑いました」


「弟は本当に何も知らなかったのです。だけど……妹だと聞かされても尚、俺はみさとを愛したんです。だから尚更愛したんです」


「実は弟さんに言わたのです。『デビュー作品が強烈で、何時も抜かさせてもらっています』って」


「実は俺、あの戦慄を弟から借りて見たんだ」


「あっだから『やはり、戦慄ですか? あれは強烈だったからな』って言ったのか?」

彼の質問に海翔さんは頷いた。


「思わず目を背けたよ。そして思ったんだ。もしかしたらみさとも同じ目に会わされていたのかも知れないと」


「もし……彼女が同じ目に会わされていたら、私は本当に生きて行けなかった」

私は又、生き抜くための言い訳を繰り返していた。




 「こんな時に悪いけど、お腹空いちゃた。何か食べに行こうか……」

海翔さんが申し訳なさそうに言った。


……グ、グーグー。

そのタイミングで彼のお腹が鳴った。


「体は正直だね」

海翔さんの発言に彼は恥ずかしそうに俯いた。


「お父さん。行って来ます」
私は拘置所を見ながら言った。


「ねえ、何処へ行く?」


「そうだな? うーん、豚だけは止めておこう」
二人は同時に言った後で顔を見合せて笑っていた。

私は又、海翔さんの発言によって救われた。


あのハロウィンの悪魔以降、マイナス思考になってしまった私。

私に本当の笑顔が戻る時は来るのだろうか?




 食事が済んでから弁護士事務所へ寄った。

今日のお礼と報告をするためだった。


その足で以前所属していた事務所へ向かった。




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