【完】女優橘遥の憂鬱
 「俺がこんな場で兄貴と話していたばかりに」
その人は溜め息混じりに、バイクの男性の追い掛け行った方向を見ていた。


(そうか。あのバイクの男性、彼女のお兄さんだったのか)

私は何故かホッとした。

バイクの男性が彼女のお兄さんだからではない。

監督の言葉を思い出したからだった。


(監督は、手こずりたいからだ私に言った。だとしたら間に合うかも知れない。田舎から出て来たばかりの彼女を、私と同じような目に合わせたくない)

私の思いはそれだけだった。




 「もしかしたら妹さん今日が初めての新宿?」


「いや、東京自体が初めてなんだよ」


「えっ、だったら余計心配だよね。きっと彼処だと思うんだ。良かったら一緒に行かない?」

一瞬、ヤバイと思った。

何が、だったら余計心配だよねだ。
目の前で妹が拉致されて心配しない人なんていないに……


「はい。よろしくお願いします」
でも、男性はそう言ってくれた。


「きっと彼処。絶体に彼処だ」

私はそう言いながら、男性の手を取って走り出した。




 カメラマンを変えったて聞いた時から悪い予感がしていた。

彼なら……
私のことを知り尽くした彼なら、こんな間違い決して起こさない。

彼とは八年間。
同じアパートの隣で暮らしてきた。
何時も一緒仕事をしてきたからだ。


何故カメラマンを変えたの?

今の私があの子と違うヘアスタイルだってこと知らない訳がないのに……


(えっ、今何て思った? ヘアースタイルが違うって? 一体何時の話?)

私は、その時から何かを感じていたようだ。




 (監督のバカ。何で彼処に行ったの? 何で此処に居なかったの? アンタのせいであの娘に何かあったら……、今度こそ許さない。絶体に許さない!!)

体が震え頭に血が上る。

早くしないと彼女が、田舎から出てきたばかりの彼女が犯される。

私と間違われたってことだけで、彼女の一生が奪われる。


(全部私のせい? あの監督ならそう言い兼ねない)


私は物凄く取り乱していた。

彼女のお兄さんと繋いだ手に力が入る。

私を許して……
監督の命令に従う私を許して……

でも、そうしないと私は生きて来られなかった。

私は又生き抜くための言い訳をしていた。



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